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  • 2018/01/04
  • AnimeandManga illustrated編集部

『電気自動車は本当に地球にやさしいか』畑村耕一「2017年パワートレーンの重大ニュース」④

新春スペシャル エンジン博士 畑村耕一「2017年パワートレーンの重大ニュース」④

PHOTO:VW 
マツダでミラーサイクル・エンジン開発を主導したエンジン博士の畑村耕一博士(エンジンコンサルタント、畑村エンジン開発事務所主宰)が、2018年のスタートにあたり、「2017年パワートレーンの重大ニュース」を寄稿してくださった。パワートレーンの現在と未来について、プロの見方を聞いてみよう。第4回は、博士が常々考え、そして主張している『電気自動車は本当に地球にやさしいか』だ。

EVは走行中に排ガスを出さないことからカーボンニュートラル(燃料の製造から走行まで含めて、CO2を増加させない)な走行をすると思われがちだが、実際は充電に必要な電力を生み出す火力発電所から大量のCO2を排出している。発電所からのCO2の排出量がさまざまな機関で試算されているが、その多くは実用燃費との乖離が大きいJC08走行時の電費を使っている。原発がフル稼働していた2009年の発電平均のCO2の排出原単位を適用したものもある。EVの電費に有利なJC08走行モードと2009年の小さな排出原単位を使うと、EVのCO2排出量はガソリンエンジン車の1/2~1/3の結果になり、EVはCO2排出量が少ないと結論づけられる。この種の、EVに有利な計算が世界中で行なわれているのが現実だ。

そこで筆者なりに、実用燃費に近いとされる米国のEPAの燃費データから発電形態毎にEVのCO2排出量を算出して、エンジン車やハイブリッド車と比較した。詳しくはVol.129(P72-75)を読んでいただくとして、最近、電力が専門の大学教授の方から教わった知見を加えて、EVのCO2排出量の考え方を紹介する。

図は、ある電力系統の中でいろいろな発電所が稼働してEVを充電している様子を描いたもので、発電形態別にEVが1km走行する場合に火力発電所から排出されるCO2排出量を明示している。原子力と再生可能エネルギー発電からのCO2排出量はほぼゼロで無視できる。将来的には再生可能エネルギーが大きな発電量になって、太陽光発電が活発な天気の良い日中には電力が余るようになる。その場合の余剰電力は蓄電して夜間のEVの充電に利用するという地球にやさしい社会のように見える。

ここで注目したいのは石炭火力発電だ。単純にEVの代わりにHEVを普及させた場合を考えると、EVの充電に必要だった電力分の石炭火力発電を停止すれば1km走行当たり182gのCO2排出量と電池製造時に排出する10gのCO2が減少する。HEVのCO2排出量は129gなので、総合的なCO2排出量が63g減少して2/3になることがわかる。天然ガス発電を停止する場合でも、EVより天然ガスハイブリッド車(CNG-HEV)を走らせた方がCO2排出量が少ない。


この単純な事実が、世界で一般的に使われている各国の電源平均のCO2排出量を使うEVのCO2排出量の算出方法を使ったのではわからない。以下に、この算出方法の問題点を考えていこう。

EVのCO2排出量について基本に立ち返って考えると、「EVが走行した場合の発電所からのCO2の総排出量と、EVが走行しない場合の総排出量の差」と定義することができる。EVの普及も想定した2030年の日本の発電計画に基づいて発電所からのCO2排出量を算出すると、図のように石炭と天然ガスの火力発電所からのCO2排出量が大部分を占める。ここでEVが普及しなかった場合は総発電量が減少するので、発電所からのCO2排出量も図A右のように減少する。上記の定義より、このCO2の減少量をEVの総走行距離で割ったものがEVのCO2排出量(kg- CO2/km)になる。

電力平均を使う算出方法はEVが出すCO2排出量を簡易的に算出したものであり、実際のCO2排出量を算出するためには発電所の稼働状況を考慮する必要がある。系統の電力消費を削減した場合のCO2排出量の削減効果の算定方法として「GHGプロトコル(The Greenhouse Gas Protocol)」が2005年にWORLD RESOURCES INSTITUTEから公開されている。このなかで、発電所の設備や稼働状況まで考慮した計算方法が詳細に提示されているのに、計算が非常に複雑なためか、あまり使われていないのが現実だ。

部分的に(電源設備の変化は考慮せず)この方法を使って米国全体のCO2排出量を算出した論文がある。HEVに替えてEVが普及すると、従来計算ではCO2排出量に差がなかったものが、この計算ではEVにすることでCO2排出量が7.4%増加することが予想される。

日本でもコージェネによるCO2削減効果を算出する場合にこの考え方が使われているが、この方式によると電源平均0.37kg/kWhから火力平均0.66kg/kWhに排出係数が増加する。系統電力の消費を削減した効果が、従来計算の1.8倍に算出されるためコージェネの普及を後押しする効果がある。

EVのCO2排出量について基本に立ち返って考えると、「EVが走行した場合の発電所からのCO2の総排出量と、EVが走行しない場合の総排出量の差」と定義することができる。電源平均のCO2排出係数を使う計算は、各電源の電力を一律に減少するという非現実的な仮定のもとに成り立つもので、実際のCO2排出量を表していない。正しくはGHGプロトコルにしたがって、EVが普及した場合と普及しない場合に設定する電源設備構成の違いと、不安定な再生可能エネルギーによる発電が普及した時の電源の稼働状況を考慮した上で、発電所からの総排出量を計算してEVのCO2排出量を算出すべきである。

再生可能エネルギーは水力や地熱を除くと天候に大きく依存するため,非常に不安定な上、電力需要に合わせた調整ができない。特に太陽光と風力は季節と天候による変動が大きく,太陽光は天気の良い日中しか発電はできない。さらに、予期しない発電低下に備えてバックアップ電源として火力発電が必要になる。

2030年に1200万台相当のEV(保有率EV10%、PHEV15%)が日本で普及したと仮定した場合について考える。この場合のEVの充電に必要な電力量は220億kWhで、総発電量の2.2%に相当する。これを夜間8時間で充電するとすれば必要な発電容量は760万kWで、100万kWの発電所8基分(石炭火力設備容量の約15%)に相当する。この影響の大きさから、EVの普及の有無によって最適な電力構成が変化すると考えるのが妥当である。その場合、再生可能エネルギーはできる限り増加させ、原子力は国の政策で決まるとすれば、減少する電力は火力発電所を削減することで対応することになる。一方、EVの充電は通常夜間に行なわれることが多く、天候と季節や曜日による電力量の変動は小さい。このEVの充電需要はベースロードに近いことから、火力発電のなかでも石炭火力を削減することが合理的である。電力構成が変わらない(それぞれの電力を一律削減)場合、火力発電を削減する場合、石炭火力を削減する場合について、それぞれのCO2排出量を算出するとこのグラフが得られる。

電源の稼働状況は、不安定な再生可能エネルギーと電力を安定させるバックアップ電源などの複雑な要因で決まるが、ここでは複雑な要因は考慮せず、EVの充電需要特性から単純に考えてみる。EVの充電は通常夜間に行なわれることが多く、天候と季節や曜日による電力量の変動は小さいので、EVの充電需要はベースロードに近い。そのため、EVが大量に普及した場合は、石炭火力の設備を増加または維持して夜間のEVの充電需要に対応するのが最小コストの電源構成になると考えられる。すなわち、石炭火力の電力でEVの充電需要は賄われるので、石炭火力発電のCO2排出係数を使用してEVのCO2排出量を算出することが、実際に近いEVのCO2排出量を示す。

その値は従来の計算値の2倍程度に増加する。

では、EVを普及させる一方、CO2の排出量を低減させるためには何がカギになるのだろうか。ひとつはもちろん、再生可能エネルギーの大量普及。そしてもうひとつは
「EVの充電中に同じ電力系統の中で石炭による火力発電所が稼働していないこと」
である。しかし、現在の電源計画では石炭火力は存続し続ける。CO2を回収するCCSが普及するのも早くて2030年以降と言われている。真にCO2排出量を削減するためには、EVの普及政策と電源政策を同時に検討していく必要がある。

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